FujiYama’s blog

バイオリン弾きの日常的な生活の風景、感想などのブログです 政経もけっこうあります

二台目で成功する音楽好き素人のよいバイオリンの選び方 予算100万で名器を

f:id:FujiYama:20210903234704j:plain世界の常識にケンカを売ろうというオールド信者さんは、ぜひお読みいただきたい。
今朝、バイオリン製作者の岩井孝夫さんの自伝的文章を読んでいたら、自分の製作した楽器がクレモナで二万でも売れず材料費三台分で楽器店に売却した逸話があった。材料費を仮に三万としてもわずか90000円にしかならない。
別の情報では、最近はどうなっているか確かではないが、イタリアの製作学校を出て一人前にバイオリンが製作できるようになっても新作は2000ユーロで楽器店に引き渡すのが相場らしい。これはよい方で日本円で約240000円から250000円位だ。名もない研修生のランクならそのくらい。
木材やニスの材料費が三万から四万なので一台で一月分の生活費くらいにはなる。
委託販売の場合、販売店でフィッティング(顎あて・テールピース・ペグ・弦・駒・魂柱)込でセッティングするから約155000円が原材料費となる。
ある計算例では高いものをトータルすると
裏+横 30000
ネック 5000
表 10000
ニス 1500
指板 5000
駒 5000
付属物 80000
弦 7000

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小計 143,500円
税 11480円

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合計 154,980円
職人人件費が日本だと1月200000円に管理費家賃と利益をのせる。
3ヶ月工程一台平均220時間かかって製作する。
同時に四台ずつ製作する超絶的凄腕職人もいるが、それは例外的。例外的だが単純計算で年間16本製作している。その場合スクロール形成と板の削りだけ親方がやるとたくさんの台数製作できる。ニスやフィッティングは研修生にという分業制も珍しくない。
というわけで個人製作なら手工品バイオリン600000円以上700000円程度の費用はどうしても必要で、それより安ければ見習いや素人レベルの職人か中国人か一部の東欧人職人の作品で間違いないだろう。日本人作品で800000円以上というのも日本の生活費による。有名店の有名イタリア親方のもとでしっかり修行した職人でも850000円で販売しているそうだ。
それ以上の価格がついている場合には、親方が派手な生活か質素な生活かを考えなければならない。
本当は楽器なんてきちんとした親方が丁寧に製作すれば、しっかり使えるすばらしいものができて、その中から好みで選ぶ手間を惜しまなければお気に入りに出会うことができる。
高価な楽器は必要ない。

一台目は中国産の数万円セットのよいものを選び、個体差なんて気にしなくてよいものを買って、ひたすら練習することが第一段階。
楽器の違いよりも、むしろ練習による音色の変化を楽しむことができるようになることが第一歩だ。
この一歩ができなければ、よい楽器かどうか、好みの楽器かどうか、という選別選択の能力がないまま選ぶことになり、二台目で成功することは無理だ。
最低5年程度は基礎的な練習と発表会に明け暮れる年月を重ねていただきたい。
そして弦と顎あてを試してみて、同じ楽器でその違いを理解しておくのが、必要な準備になる。

ローデやモーツアルトのコンチェルトが満足に弾けるようになってきたら、名器とよいオールド楽器を試し弾きすることが重要だ。
ほんとうによい楽器というのは、なにがよいのかを実体験することだ。
これにも数年かけても惜しくない内容ある体験になる。

そうしてようやく新作楽器の試し弾きを40本以上こなすべきである。ラインナップがよければ30本でもよいが、できるだけ多くの国、工房、職人の作品をそれぞれ複数台試し弾きして、違いをくっきり体感できるようになるまで試す。
いろいろな会場や楽器店など音響がすべて違うところで、弦やパーツが違うものを差し引いて、楽器の違いを体感できるようになるのは、演奏の練習と同じくらい大変な能力開発だ。

冒頭、細かく手工品の値段の根拠を書いたが、その値段を下回るものの中には、まともなものは存在しないということの証明である。
60万未満のバイオリンだけは、確実にムダ金になるから、1台目だけはやむを得ないから別として、絶対に買わないように注意したい。

よい楽器を紹介してもらう場合、60万や70万から100万程度ではよほど運がよくなければ、自分の好みなんて来るはずがない。確率を考えるとあたりまえすぎる。ある人は30本に1本しか好みのバイオリンはないと言う。実際に楽器店で一度の試し弾きできるのは多くても10台。数時間がかりで疲労感すら覚える台数だ。
気の遠くなるような作業である。

楽器の価格について、あまりにも馬鹿げた決め方がありふれているので、楽器屋さんでモダンやオールドが選択肢に入らない。
新作は単純に経費と材料費から冷静に見ればよいから、それほど失敗する確率は高くない。
70万円前後から100万程度の親方の作品をただひたすら多く経験していって、その中で一生モノを見つけると、その楽器は新品の名器だと言える。
イタリア作品でも100万円しないものの中に優秀な作品があるという意見がある。
高い作品はほとんどが経費が高いし、作家が遊び好きだったり有名さで満足したりして、弟子にほとんど作らせたり、年中講演したりという、まさに高い買い物になるだけで、バイオリンの質そのものは、値段とはまったく関係ない。

ガダニーニスクールなどオールドでもそうだが、見習いや有名作家の弟子の作品を弾き比べてみると、実はよく似た中途半端さが共通していて面白い。
性能に大差ないのだ。
それが新作ならイタリア作品なら240万で販売され、日本作品なら80万で販売され、ドイツ作品なら50万、中国東欧なら40万というだけのこと。
ガダニーニの弟子も当時から中途半端だったが、200年以上たって音が響くようになっても中途半端な響き方をする。
このことが意味するのは、現代の名器はほんとうに200年後の名器だということだ。
ブランドや作家では名器だという保証にはならない。
弦選びでも似た現象に出会う。悪い弦は響きがばらけて感じられ、良い弦はどの音を出しても同じ一つの音質に感じられる。
そこは、響きの違いや性能が気にならないような人、一生譲歩できる人は、そういう中途半端に安い選び方もあるが、それなら数万円の一台目でも大差なく十分だ。
譲歩したくなければ、準備の期間と労力はかなり必要になる。

新作の名器は、音の質がすばらしい。
目隠しの弾き比べでオールドより感覚的にすばらしいという実験結果があった。
乾いたスカスカの音よりみずみずしく潤った音は体感的に健康的ですらある。
新作でもやわらかい響きのものがある。
新作でも鳴り渡るすばらしいものがある。
底なりから高音の抜けまで完璧なレベルの作品がある。

国、作家、工房、ランク、知名度をまったく別にした個体差で、名器と出会うまで楽器店に押しかけてただひたすら待ち続けるしかない。
値段は相当違うのに、きちんとした手工品を弾き比べ聞き比べると響きの量にはほぼ差はない。
したがって予算は100万円あれば十分なのである。
バイオリンは安くもないがそれほど高い手工品ではない。