2021年に素晴らしい新作バイオリンを嫁に迎えることができた。
毎日が明るい心になり、どんなに曇った日にも美しい光が差し込んでいる。
よい新作の条件はすでに記事にしたが、わたしの楽器は実力のある著名な製作者の作品ではなく、製作者が手を入れた楽器である。
同じラベルの楽器を5台弾いてわかったのは、1台の板の削りだけが製作者本人のものらしいことで、あとの4台は板の削りが優秀で典型的な地域性溢れる削りだったので、雇われ職人のものだということである。
ナットを外してみてわかったのは、工程短縮のために瞬間接着剤を使用していることで、明らかに高級品としての製作方法ではない。もちろんニカワで製作しているものの、その箇所だけは誤魔化してあるのだ。現在はニカワでナットをとめてもらった。
本人の削りであろうことは響きでよくわかる。
安価なのに証明書付きの260万円~280万円ものの響きと非常に近いのはおそらく奇跡のようなものだが、本来は本人作のラベルなのでそうあってほしいものだ。かつては本人自筆の証明書がついていた時期があるグレードだという微妙さがなんともいえない。
先月試奏する機会があった2004年製の同じラベルのものは、音色のレベルが明らかに低く、2020年ラベルの今の雇われ職人はまあまあのレベルがあることがわかる。
さて、音をよくするために弦をオイドクサにしたりオリーブにしたりした話も記事にした。感想としてはどの弦でもすばらしい音がするという下らないところに落ち着いている。
楽器があまりよくないから色んな高級ナイロン弦を試すだけなのだと思う。
それでガット志向と実用上冬の間はナイロンという2段構えを考えているが、ほんとうにどの弦でもよい音がするようだ。ナイロンはほどよいもので十分らしい。
次に弓と弓の毛と松やにと腕というところが浮上する。
弓の毛も最近イタリア馬毛を試した感想を書いたばかりで、イタリアで問題なさそうだ。留意点は高価すぎるので、お店をきちんと選ばなければならないところくらいだ。
弓は中途半端な2本を所有しているためにとても悩ましい。
よいオールドは実際に高級品で手が出ない。
ユーリの反り直しをしてイタリア馬毛を張ってベルナルデルを塗るとまあまあな弓と音になるかなと思案しながら、そのために期間と費用はそれなりに必要だ。
とりあえず松やにで音を引き出すことを考え、コーダのマーキスという新作弓のような柔らかい響きの特性から低弦の鳴りを大きくすること、新作バイオリンのやや貧弱な高音の響きを豊かにすることを同時に満たす松やにを選定した。
高額なものはあまり意味がなく、はやりのベスポークはプロが口を揃えるとおりベルナルデルと大差ない。気になるのはベスポークのビオラ用とコンチェルトの性能だが、言ってしまえばダーク系の松脂がよいというだけのことなのである。
アルシェのテノールも引っ掛かりと密度のある音色がするので十分検討対象ではあるが、絶対アルシェというこだわりもない。
たくさん比較するのは面白いが、あまり意味はない。
ギヨームとテノールとベスポークコンチェルトと他に3種類と比較するに至る。
さすがに迷って音楽教室の人に助言を求めたが、松脂ではほとんど変わらないこととダークかライトかという単純明快な回答しか得られなかった。
いろいろ話を聞きながら、ふと見ると目の前に候補の1つのHill&sunsのダークが置いてある。
きわめてマイナーな松脂で店の人もわからないとしながら、値札は今時驚異的に抑えた価格、さらにレジで見慣れた店員さんはライン登録で10%引きにしてくださった。
信じがたい1400円台也。
この決め手は実はハイフェッツが使用していたと札にメモがあったからだった。
早速、試して驚き、しばらく弾き込んで踊りだすほど歓喜雀躍。
第一印象はギヨームの音を少し硬くしたような感じで、弾きづらいと感じた。
音の豊かさと厚みと低弦の鳴りが飛躍的に倍増を凌駕するレベルで素晴らしい。
しばらくするとベスポークの音量や豊かさの色彩を濃厚にしたバージョン(ベスポークビオラに近いもの)だとわかった。しかも自分がルッジェーロリッチかと錯覚する(笑)ほどの引っ掛かりのよさがある。弓が弦にはじかれるほどのすごさ。別のお店ではアルシェのアルトとギヨームと同じ引っ掛かりレベルの評価になっていたが、アルトとは段違いで間違いなく松脂は色の違いが大きいことがわかる。おおまかに濃ゆければ引っ掛かる。
パガニーニのカプリスを3曲弾いてみて、弾きやすさは100倍、音色は1000倍よくなったと思った。ハイフェッツやリッチのようなよい弓は入手困難だが、それを補ううえで、松脂なんてそれほど大きく変わらないという予想と先入観をよいほうに裏切られた。
音が粗くなると感じたのは第一印象だけだった。
音は暗くはならず濃密濃厚で強い光を放つ。
名弓なら音色は10000倍よくなるのだが、小さなマンションを買うくらいの値段がする。
あとは音楽をどれだけ豊かに感じ取って表現したいと思うかという意欲からくる技能向上が決め手になるだろう。