先日ドイツの音大などで指導しているというアンティエバイトハースさんの演奏を聴いてみた。
サントリーホールでのオーケストラ伴奏は聞き慣れているので、バイオリンの音質を比較するには申し分ない。
バイオリンは新作。
曲は難曲、シューマンのバイオリン協奏曲。
透き通った音色は、真っ白い。
オーケストラの弦楽器はオールドやモダンが多いが、共鳴の妙も素晴らしかった。
透き通り方が圧倒的でストラディバリウスにも劣らない。
2001年の作品だとのことで、すっかり演奏家に馴染んでいる。
木材の質が高いものは、その透明度が上がる。
よく言われる楽器の音量や遠鳴りというのは、見習工やあまり腕のない職人の作品では問題になる。
しかしある程度の製作者の技量があれば、大ホールで充分に鳴っているので、ストラディバリウスほど特殊なものは必要ないとすら思う。
伴奏もほどほどのレベルならピアニシモは出せるし微妙に共鳴融合させる。
いかに精度の高いよいバイオリンでも演奏家がその真価を発揮させなければ宝の持ち腐れ。
ユリアフィッシャーというバイオリニストも新作バイオリンを弾くが、理想を求めるとストラディバリウスか新作かというところに行き着く人は案外多いようだ。
弦の質は高いものが何種類もあり、使い勝手で比較的容易に選ぶが、本体を億単位のオールドから選ぶのは本当に難しい。
演奏技能があれば、新作で理想の音楽は表現できる。
ある程度のレベルがある楽器から理想を選ぶのが妥当だろう。
自分で弾き比べ、演奏家の弾き比べを聴いていると、バランスよく音が出ていて音質がよいものは、必ずある。
モダンと新作が現実的な場合がほとんどなので、まずは技能をまずみがくことが1番だと思うが、自分の楽器の弱いところを補強する弾き方に気が付く人なら、もうそこまでは到達しているから、試しに楽器店で弾かせてもらうとよい。
試しに弾いてから気が付くこともある。
音楽が先にあってせっかく弾くので、楽器がその人の音楽を邪魔しないようなものでなければならない。
バイオリンの教師は基礎的なところを楽しく無理なく習得させるのが1番だが、生徒はどこかでいつかは優れた楽器の必要性と向き合う時が来る。
よい新作バイオリンの中には、心底驚嘆するほどの美しい純粋さがある。
いくつもの素晴らしい新作バイオリンとの出会いがまたひとつ増えた。
自分の比較的安価なバイオリンが理想の音質にあと僅かに及ばず、しかしかなり素晴らしい新作であることも手伝って改めて記事にしたくなった。
理想のしかし職業的要求を満たす新作バイオリンの価格帯を考えると、これからの日本の中流家庭には多少厳しい時代になりつつある。
下層の家計のためにはすでに100万円の予算での選び方をいくつかの記事にしたとおりだ。
オールドを仕事で使う人でも、練習用に同じ寸法の新作バイオリンを使う人が世界中一定いるというのが、演奏家の技量にとってなにが大切なのかを示している。
音がよいという場合、魔力の陶酔が技量を下げるというあたりまえのことに気が付くべきだ。
アルコール度数の高いもので練習になるという人は飲酒運転を推奨したり事故を繰り返したりする人でもある。
新作の音のよさは、ストラディバリに通じている新鮮な音のよさであり、透明度は材木の質であり、いかにシラフで演奏するかという物差しで演奏する習慣がなければ、技量はさっぱり上がらない。
新作の低音の鳴りについては多少不利な印象がある。
しかしストラディバリはガルネリの低音と異質であり、なおかつそれぞれ素晴らしい。
カラッと響くか重く響くかの違いは理想の違いであり、古い楽器だからよいわけではないことが大切なポイントだ。
弓をどう当ててどう弾くかという響かせ方のバリエーションを弾きわけることで物足りなさを感じさせないようにできる。
一時期デルジェスとガルネリファミリーにはまりそうになったが、G線を朗々と鳴らす必要がある箇所があまりに少なく、しかもガルネリの音の厚みを出したければイコールではなくとも技量と楽器回り調整で十分に満足な音が出せるため、バイオリンは高音が命というもとのスタートラインに戻っている。
もちろん古いものは大切に使うという文化を尊重しながらではある。