夢のない話でもあり、いちおうかけるところにはかけなければ仕方ないという話でもある。
バイオリンの腕は弓の優れたもので向上することを何度か書いた。専門家もそう言うから、最低限度の性能がある弓を選ぶ必要があるということは経験とあわせて理解した。
さて次に弓の毛の質を変えると、音質が緻密になり、引っ掛かりがよくなり、これもまたおカネをかけるとまあまあの変化があることを書いた。
確かにイタリア産は素晴らしい。
それに追い打ちをかけるような話で、弓の毛の量をどこまで増やすと一番よいかというところ。
楽器屋さんによるが、定額で量を調整してくださるのはありがたい。
しかもお世話になっている弦楽器屋さんは完全に希望の量にしてくださる。
最初は標準的な量だったが、実感としては合奏用、オケ用の標準量だった。
室内楽やソロには不足感があった。
ユーチューバーによるとマイクを使う人も標準か標準より少ない量で問題ないそうだ。
増やしすぎるとモサッとして弾きづらい。
今回はそのギリギリまで増やしていただいた。
チェロの標準量の1割減くらいらしい。
最初はモサッとしたが、すぐにそうでもないことに気が付く。
右手のクッション性を毛でカバーし、音量の最大値が圧倒的に向上し、摩擦係数ももちろん最大化されているし、あてかたを掴めば繊細な音が出せる。
しかも精度の最高峰marquise弓だ。
次回はヴィオラとチェロの中間位にしてもらう予定で、その比較で毛量を決めたい。
腕でどこまで音量を美しく出せるか一応ぎりぎりまでやってみた後だからこそ、この価値がよくわかるということが一つのポイントだろう。
そして楽器店の経営哲学に通じることとして、奏者の希望にあわせた毛量を定額で提供する配慮や心意気が粋だなあと感謝する。
毛量だけで考えると標準の倍近いか倍くらいのイタリア馬毛だ。
毛量を最適化して最高の表現をしたいというニーズと私ですら2か月程度しかもたない消耗品ではそこまで利益を追求しないという賢明さがマッチしたので、ずっと同じお店で依頼することになったような形。
書き出しとは逆になってしまうが、腕はおカネでは買えないともいえる。
音を追及する講師と奏者と、奏者に寄り添う楽器店の共同作業の成果としてウデはメキメキ上がるというわけなのである。
ありきたりにものは考えよう。