FujiYama’s blog

バイオリン弾きの日常的な生活の風景、感想などのブログです 政経もけっこうあります

童は見たり垣根の薔薇 原点回帰ふるさと

母方の祖父母の記憶は鮮明なものもありおぼろげなものもある。
しかし文化の基礎、仕事の基本を体感させてくれたような恩義を感じる。
時代は激動と激変で決して平和でも余裕でもなかった。
祖父母とも戦地外地から命からがら帰国した。
財産も戦後ほとんど取り上げられた。
今わたしが住んでいるところからあまり遠くないところで戦前祖父は法律を勉強して製鉄所に就職して後に会社役員になる。
今般そのキャンパスが茗荷谷に帰ってくるそうだ。

祖父は毎朝5時に起きて庭の芝生の手入れをする。
まだ2センチくらいの雑草を一本一本抜く。
それからゴルフクラブでスイングの型を確認する。
ご飯と味噌汁を食してから着替えて出勤する。
祖母とともに毎朝毎夕炊き立ての飯を仏壇に供える。
すでに社用車は運転手が玄関前で待機している。
祖母が靴べらを手渡し、幼い孫の兄弟と一緒に送り出される。
日曜日はゴルフに出掛け、大会ではいつも優勝トロフィーをとって自慢している。
コースと大会が楽しみで、地方ながら最古参の名門コースの会員だとやはり自慢している。
ゴルフに行かない休日は庭の手入れをする。
生け垣の葉が伸びたら切り揃える。
芝生が伸びたら機械で刈る。
つつじが伸びたら切り揃える。
農薬を噴霧して害虫から木を守る。
時折庭師を頼んでわからないことを質問する。
食事は純和食で廊下の床は雑巾がけ。
とにかく手間隙をかけて1日1日がすぎゆく。
だらけた姿を1度も一瞬も見たことがない。
人生を楽しむために倹約と努力を惜しまない。
子孫が幸福になるように言葉数は少ないが智恵の限りを授けようとする。
夕食後の台所は汚れどころか水滴の一滴も残さず美しく片付けを完了させてから丁寧な挨拶を1日たりとも忘れない。
祖父は役員を引退してしばらくゴルフ三昧になったが、仕事がきちんとしていたので毎年会社の人たちは感謝の表明に挨拶に来ていた。
床の間の書は祖父の妹の子息がしたためたもので、このブログでは何度か触れた芸術家である。
賞は幾度ももらっているが西日本の副会長をやったり北九州地域の要職者としても高名なのを児童だったわたしは存じ上げず、ただ素晴らしい書を空気のように感じていた。
それがただあたりまえだった。

磨き上げた床と毎日手入れしている庭はまばゆく美しかった。
毎日手入れしている糠床の漬け物は美味しかった。
草花と樹木に囲まれて祖母と談笑した日々を懐かしみながらその当時からの樹木とともに今を生きている。
柿の木は失くなり、大きな柊とたくさんの槙は伐ってしまったが、桜や梅や椿やつつじや琵琶や松たちが健在だ。
妹が生まれたときに植えた紅葉の苗は立派に人の背丈をこえている。
生け垣に這わせた薔薇の品格は祖母の御機嫌な笑みを思い起こさせる。
みんないつか旅立つ。