いくつもの国のメーカーがカーボンのバイオリン弓を開発製品化して、もう何十年くらいたつのだろうか?出揃った印象。
以前の記事では、カーボン素材が軍事医療のためではなく、弦楽器の弓の素材としてそもそも見られていた目から鱗の素晴らしいアメリカの科学者たちの話題に触れた。
基準になるのは当然木製の弓で、最高の弓がわからなければ、カーボンの特徴もわからない。
剛弓としなりの感覚、弾性がひとつ。
ふたつめは響きの質とみっつめにその変化、経年変化。よっつめは重量バランス。
最高の弓は、最新のできたてのギヨームや使われていなかったペカットなどの名人作だと仮定している。
順番は前後するが、実は重量バランスがよいものが一番使いやすい。音量も音質もしなりも、実は重量バランスあっての性能で、バランスがとれない弓でいくらしなっても音がよくても使えない。
その前提に、最初にマスターする段階で使う弓がとても大切になる。大は小を兼ねるで、一番重たく感じるバランスの弓を使っていれば、それほどバランスは問題にならない。逆に繊細で軽いバランスの弓を使い慣れたら、いわゆる剛弓はどうしても使いづらい。
カーボン素材の弓はどれも基本、重たいバランスになっている。
鳴らない楽器でも鳴らせるほど重たくしっかり弦に載せる感じで、軽い(バロック系や発音が小さい)ほうがよいなら向かない。
ふたつめのポイントはしなりという素材そのものの根本的な違いで、カーボンはほとんどしならない。硬直化した弓だと当然手ゆびのしなやかさの範囲は狭くなり、微妙に運弓にコツがいる。私の場合、ナイロン弦をガット弦にするというアクロバティックな?調整をしたが、本来的には手ゆびの使い方が変わることになる。
難易度の高い曲をバンバン弾くような人たちは、しなりがないほうが弾きやすいと感じるから、シンプルに使い慣れれば硬さは問題ではない。むしろレスポンスがよい。
音質と音量だが、私の場合、素材の硬さとの印象に多少ラグがある。マーキスとGXは新作新品の芯のある音質に近く音量は最高である。
木製のよい素材のものは密が濃く硬い材なので、非常によく似た印象でそこに問題にするほどのラグはない。
つまり最高級とされるオールドボウで保存状態がよいものには、どうしても勝てないということになるが、そんな弓に1000万以上かける人はあまりいない。日々の磨耗疲労を気にする人にはありがたい弓である。百年してもなにも変わらず新作の音がするのは、どことなくなんだかさみしいが、超優秀な新作の音なので劣るという感覚は操作上ありえない。
弾き比べると音量ではオールドと変わらず、音質ではオールドが圧倒的に透き通って軽い音がする。
マーキスは芯のある音ではあるが透明感もそれなりに併せ持っている。
弾き手が繊細になっていくのが硬い材の名弓とカーボン弓で、磨耗疲労した名人作やもう少しの材の弓は弾き手を緩慢にする。
少し弾き慣れたら弓で演奏は恐ろしく別人のように雰囲気が変わっていく。
状態と材のよいオールドボウを二本か三本とマーキスかGXを一本の計三本か四本持ちがおすすめ。
どうしても木製のへたった弓(材はよい)とは感覚が違うので、スタンダードなよいオールドやよい新作(ペカット、サルトリー、トルテモデル)とローテーションで使うとラグがほぼなくて、サブやメインを問わずに色違いとして使える。
致し方ないが、軽い繊細なバランス系統だけを使う人たちには、まったく使えないシロモノではある。