シュラディークの記事はいくつも書いたが、未完成なところを書き足すことにした。
中指、薬指、小指の三本が一まとまりで、この三本が自由に動くことがとても大切な話を書いた。
その中で、さりげなく「正しい親指の位置」と書いたが、これが案外難しい。
ある芸大卒のバイオリニストは棹に親指を斜めに当てると指導し、別の院卒は垂直に当てると指導する。
両方やってみて、垂直が正しいと結論した。
何故かと言えば、安定の度合いがまったく違うから。
垂直なだけではなく、指板から飛び出過ぎないこととあわせて、人差し指が指板棹にあたる位置が人差し指付根になることが安定の欠かせない要素。
幼児期にマメに練習したスズキメソッドを思い出して弾くと、未完成ながら安定して音程がジャストミートしていた理由はそこにあった。
未完成とは、親指が指板から飛び出過ぎていてそのぶんだけ左手と棹は密着するから(握るから)左手が不自由になり、その状態では重音はほとんど無理だ。
親指を下げ、垂直で半固定すると、人差し指付根を半固定しやすく、1の指を押さえる(置くだけでも充分)角度が変わり、外側三本の指は自由自在に確実に動くようになる。音程は完璧に小指トリルが楽になる。
話を戻すと、親指を斜めにあてても、やはり重音がまったく弾けない。左手がヒッチャカメッチャカでアクロバティックなことをやろうとなると、実際上演奏困難な箇所が膨大になる。
おそらく手の甲と各指長の比率に個人差があって親指を斜めにしても弾ける人たちがいるのだろうが、弾けるのは同じでも安定感や安心感は多少なり違うし、わたしに至っては、垂直でなければもはや弾けない印象になってきた。
重音の例。バッハシャコンヌの1番最初。
6度の重音。
ここで注目すべきは、6度で人差し指と中指しか弦上には置いていないのに、薬指小指も弦のすぐそば、すぐ上に待機していることだ。
左手各指は常に弦上に待機している。
そして、親指は飛び出ない。E線で少し出るくらい。
それとセットとして、人差し指付根は棹から離さない。#や♭で形を変化させる必要がある場合は、人差し指付根から微妙に手のひらにあたり、しかしそれでも人差し指は離さない。親指の角度を維持しなければ安定は崩れる。もちろん置く各指の間隔は変わる。手のひらは変わる。
シ(B)ナチュラルとシフラットの例
ここで書いたことをやろうとすると、最初は窮屈な感じで、痛みを感じたり、あり得ないとか無理だとか思うだろう。
それはそういうもので、できるように。
できるようになれば、その窮屈な感じはジャストフィットになる。
プロの奏者、芸術家、立派な演奏家たちは楽に疲れず演奏できる。
音を外すかもなんて微塵も思っていない。
昔の恩師は合奏指導の際「外すなんてあり得ない」と言うし、まったくその通りなのだ。
だからこそ楽しいのであって、不安神経症になりたい人なんていない。
半端な人たちがやるべきことのヒントを書いたが、基礎を考え直す、振り返る人たちもいるだろう。
とにかく基礎が大切なのは、楽しく演奏するためだと思うので、ぜひきちんとした先生に習って欲しい。
基礎を教えない先生に何十年習っても、心から楽しく演奏できるようには絶対ならないから。
楽しげと心から楽しいはまったく別物なので、お間違えのないように。
お幸せに。