FujiYama’s blog

バイオリン弾きの日常的な生活の風景、感想などのブログです 政経もけっこうあります

この世のバイオリンには四種類しかない

お店で40万円くらいの安い楽器をプロが弾くと いくら完璧に弾いても音質音量はごまかせない。歴然としている。Dクラスとする。
そのようにまず使えるバイオリンと使えないバイオリンに分けられる。
いちおう使えるバイオリンは美しく聞こえる音色が出てしかも響くもの。
使えるバイオリンの中で最高峰のものは大学の教授とか世界的ソリストが使用することがほとんどでAクラスとする。特に優れたものはほとんど財団か財閥系資産家が所有しており、貸与されます。
なので大半はBCクラスから選ぶことがほとんどでしょう。BCの分け方には主観なようで客観的な見方があることに気が付きました。
楽器には個体差があります。またバイオリンには音程とは違う音響の幅があり、響き方がそれぞれ異なります。
製作段階では3種類あり、純マイスター製とマイスター仕上げと職人工房製です。
マイスターと一番弟子(影武者)はそれほど際立った違いのわかりにくい同じ品質で同じ表示になり、ストラディバリウスも家族でひとつのラベルを使う共同体の工房だったので、どのバイオリンも一定の範囲内の品質を持っています。
独りの工房と二三人の工房とでは、作業効率が違います。新人と熟練者でも生産本数は倍以上違います。3人の工房で有名なストラディバリウスは年間約17本生産しました。3人とも有能だと常に優秀作が生まれますが、新人と研修中の職人が製作すれば当然品質は下がります。
職人は徒弟制度で製作方法を学ぶので、基本的に安月給が当たり前です。高卒や中卒が普通なのでそこまでの高望みはできないのです。よほど名前が売れて、イタリアの都市で、最高の材料を使うと高値を付けても売れますが、だいたいよい生活をしたい独り親方が高値のバイオリンを製作していることが多いです。徒弟制度の工房から抜け出して別の価値観で製作していることと、腕が確実だという自負と個人のオリジナルの証明が自然になされているという特徴がありますが、とにかく高価なバイオリンになります。独りではせいぜい8本しか製作できないので安いと生活保護レベルの生活になります。
一方で中国製の勃興が目覚ましく、多くの製作家は危機感をつのらせています。有名人は高値で売れるけど、たいていの人はそれほどの値付けができません。そこに優秀作を製作する中国人職人が出てくると供給過剰です。
ますます高値はつけられません。
ある工房では親方がマイスターでアシスタントはもうすぐマイスター取得というハイレベルな共同作業をしていたり、家族がアシスタントをするなど、非常に生産性と優秀さを兼ね備えたやり方です。それなら安くてよいバイオリンができます。文化に哲学があれば値をつり上げることはあえてしないものです。
そんな事情の中で玉石混淆のバイオリンが世に出回りますから、よいバイオリンはよい職人の製作が前提になって、価格はそれほど関係ありません。
80万円くらいの新作でも素晴らしい場合もありますし、150万円や250万円の有名人のものでもパッとしないものがあるわけです。名前だけ売れているとか、親方が有名だからで値段がついていたり、熟練者でももうひとつな出来上がりになることがしばしばあります。有名無実というヤツです。
ずいぶん話が製作事情にぶれましたが、AクラスとBクラスCクラスは、低音から高音まで伸び伸びと大きな音がなる。音が相互にまとまって響く。ABクラスは、音が強いだけではなく響きに柔らかさから強さまでの幅が広い。指先のタッチが極限まで繊細で思い通りに音程やポジショニングができる。Aクラスと同じように音が抜けわたる。という特徴があります。Cクラスもまあまあなので、音大生やプロ演奏家も使っているのですが、どちらかと言えば安酒場向けの刺激的で官能的な音が売りになります。しかも時にはオールドなどは1000万円クラスのものもあり、決して安くありません。値をつり上げる絶好のカテゴリです。
使えないバイオリンは冴えない職人や量産の駄作とCクラスのものだと私は思いますが、個人の事情で使うものですから、なんとも言えません。きちんと修練して表現する道具としてはCも充分に使えますから。
ブランドや生産国や年代で決まる値段ではなく、楽器の違いを正確に見分けて選ぶと、Bクラスの楽しいバイオリンを弾くことができます。よいバイオリンは世の中にたくさんありますが、70万円以上の親方のものの中にCクラスのものもたくさん混ざっていて、そこの見分け方が一番難しいようです。
世の商法として、Aを看板にしつついかにCをBの値段で売るかに注力しており、音大生のコースの皆さんものの見事に騙されます。
Cも名のある職人工房製造ですが、明らかに出来が違うものも溢れかえっています。そこそこの実力があり充分魅力的ですが、販売側が全力で売り込む理由は不出来だからこそです。
楽器営業が提示してくる是非ともおすすめのバイオリン、自信をもっておすすめのバイオリンこそ危険な失敗作であることが多いです。
演奏家志望の生徒もまた師弟や徒弟文化の影響を受けて師匠の言いなり、素直さが優秀さの一部というところにつけこんでの商法には、業界や業者の悪質さすら感じますが、不思議とBクラスにスッと縁する人もいて、f:id:FujiYama:20210819163252j:plain好運と幸福すら感じます。
Cクラスのバイオリンの人は伸び悩み、演奏で芸術的な栄えができずに長く苦しみますが、刺激的官能的な音色と大きな音が判断を狂わせていて、高価なブランドのまさか自分の楽器が失敗作だとは思いません。強さがすべての時代では、その失敗作がかえって成功とか正義だと言われてもてはやされています。
Dクラスのバイオリンでも音楽を奏でているプロは確かにいますが、例外的です。
むしろCクラスのものをつかまされているプロやセミプロが、いかに買いかえの効果の高さに気が付くか、そこに私の関心はあります。
比較的安い新作やモダンに対しても偏見を持たずに吟味していく時間と労力が、演奏家の一生のさらなる幸福を切り開くこの上なく貴重な経験になるでしょう。
人を信用して騙されても、責任は本人がとらなければなりません。
人を信用することが一番の問題です。
確実な自分の目を育てましょう。