無我夢中で練習したのは、いつのことだっただろうか。当時、特別に生活が苦しい状態が続いていたので、なにか現実逃避のように夢の中でバイオリンを弾いていたような気がする。自分の出す音を、ホールの響きを楽しむ心のゆとりがなかった。
もとはといえば、グリュミオーの全集に入っていたから、それだけでも好きな曲で、これを聴きながら何度も眠りに落ちた。
この曲で一度だけレッスンを受けたが、ボーイングの指導をされた。
かすれたようなボーイング、昨年とうとう亡くなったギトリスのような感じで弾いたつもりだったが、大家はストラディバリなので成立する奏法であり、私の安楽器では無理な奏法だった。
今は奏法を見直して大した問題はなくなりつつあるが、しっかりした発音、濃密な音色を出せるように改善を指導された。
なるほど濃厚な音のほうがはっきりして楽しい。
リズム感やテンポ感を出すためには、よりはっきりした発音と音色を出せることが条件になる。カスレているボーイングは、ふわっと感を出す必要がある箇所でしか使えないものだった。当時の生活満足度や充実度が低下した心理を如実にあらわしたボーイングだったと言えなくもないが、最低レベルの生活は維持しなければ、なにもかもおかしくなるなというレッスン体験だった。