バイオリンの音はさまざまな要素でできている。一番わかりやすいのは弦による違い。あとの違いは主に楽器の違いと仮に置いても大間違いにはならない。
そこで弦の違いを差し引いて音の響きを比較することになる。
まず大きさの違いがわかりやすい。低音から高音まで弾いてみてよく響くものとそうでもないものとまったく響かないものがある。
次に音が乾いた感じかしっとりした感じかの違い。抜ける音かこもる音か。明るさのある音が乾いた感じとは限らない。明るい音でも芯が強いもののほうがよい。耳元で強く鳴るものにあまり響かないものもある。
こうなると、一体なにが違うのかよくわからない。
これは実はストラディバリなどイタリアンオールドとの比較という手法で解決するのが合理的だと思う。もし仮に好みで片付けると病む人が出てくるからだ。一応好みはあるし、好みに値打ちもあるが。
従って、合理的な比較をすると、ちょっと怖いテリトリーがある。モダン(50年~100年前後のもの)、オールド(100年を大きく超えたもの)楽器の世界だ。
モダンだからオールドだからという骨董的価値は確かにあるし、音が丸く魅力ある響きかたもする。
そこで中途半端なモダンやオールドに手を出すと病む。
もう数十本は弾いているが、新作で鳴りのよく明るく華やかなバイオリンのほうが健康的で素晴らしく、しかも安価だ。
グレードがある程度のものになると音色も決してモダンに負けていない。響きがいかにストラディバリに近いかという基準でよく弾き比べてみると、コスパは断然新作バイオリンのほうだ。
新作の安っぽい音のものは、楽器のつくりが安っぽいもので、楽器そのものがよくできているものは、質感の高い音がする。
モダンやオールドでよくできたものは、非常に高価格になっているから、庶民には手が出ない。500万くらいはないとまともなものはないと心得たほうがよい。今は500万でも厳しい。
庶民がいかにバイオリンを健康に楽しむかを考えると、新作バイオリン一択だ。骨董的な置物ならモダンやオールドもよいし、基礎練習用なら別に調整さえできていれば使える。
しかし結局はよりよく響きより明るくより華やかなより抜けわたるものを求めるのが人間である。
なぜかと言えば、生老病死の苦悩は中途半端な楽器の響きでは癒せないからである。暗くくぐもったような細々としたこもる音では、繰り返すが、病む。
そうは言っても、やむを得ずパッとしない楽器を弾かねばならない人も大勢おられるだろう。
まず手軽な弦の交換が対策になるが、次に大事なのが弓である。弓にも明るくてよく響くものがあり、弓をかえるだけで随分かわる。弓は楽器との響きの量のバランスをとって選ぶべきだ。弓があまり響かなかったり、弓ばかりよく響いたりするとかなり弾きづらい。
われわれはバイオリンに癒しを求める。
ストレス発散ならエレキ楽器のほうが向いている。
それよりも、もっと深いところの癒しを提供する楽器としてアコースティックバイオリンを見た時、以上のような楽器選びの仕方を提案したい。
予算に応じて新作・モダン・オールドを選び、決して響きのもうひとつのものには極力手を出さないようにしてほしい。予算が300万なければ新作を、予算が500万から1000万なければモダンを探すのが無難である。これに外れたものは病むこと請け合いだ。
そんなこと言ってもどうしてもモダンがよいとかオールドが良いという人には、仕方ないのでお悔やみを申し上げたい。
日本国内ではバイオリンの値段はすでに吊り上げられているからあまりお得感がないものがある。
できれば海外の楽器屋さんを探し歩くのが一番お得感がある買い物になるが滞在費用が気にならない人にしかできない。
国内では、この2、30年で多くの楽器価格は倍くらいに上がっている。そんな市場で主流から外れた好みの楽器を買うと大損をすることほぼ必至だから要注意だ。
一言でまとめると、庶民は新作でよいものを吟味して。
品質と価格で選びやすいサイレントやエレキバイオリンもあるが、どうしてもアコースティックの響きが欲しい人が多い。
なにも引け目に感じることもなく、よい新作は音の響きがよく、質感が高い。
庶民には玉石混淆の新作の弾き比べは興味深く面白い。
自身のモダン楽器経験と弾き比べの体験で痛い思いをしたので自分は宝くじでも当たらなければこれからはモダン楽器は選ばないだろうと思う。
ただひたすら美しい音の響きを追い求めるのが正しいというのが結論。ふつうに感性をみがく必要がある。個人の好みや生まれながらの感性はあてにならない。最高の音の響きを基準にしなければ、たんなる変人趣味だ。
特に趣味のバイオリン弾きは胆に命じたい。