幼少期から毎日最低でも30分間、バイオリンを弾いて数十年が経っている。プロになる道は健康問題で絶たれたものの、人から上手いと言われるだけの練習量は十分にやってきたので、もう一歩の方々にぜひ上手になっていただきたくてよく考えてきたことを記事におこした。
ひとつは基準をプロに置くことが大前提です。超一流アーティストというのも重要で、実際に聴いてみることから始まります。目標を絶対的な一番においてから、次に具体的な道筋を見定めることに移ります。
コンクール出場者がコンスタントに出ているバイオリン教室の発表会に見学に行くことです。小学生や中学生が難曲をわけもなくスラスラと弾いているのを目の前で鑑賞することが重要です。学生コンクールも会場を公開しています。負けているなどと思う必要もありません。
彼らが一日数時間毎日毎日練習しているという事実もできれば直接聞いたほうがいいでしょうが、それは知人の有無によるところもあります。その場合はバイオリニストが書いた書籍を読んで経験談を学ぶという方法があります。
そういった練習量が半端でない人たちの実際を目の前にして、刺激を受けて自分もたくさん練習してみようという気持ちになることが大切です。
私は幸いにもコンクール出場者が毎年いる教室に10年ほどいたので、刺激だけは十分にありました。住宅問題や事情があってしばらくの間毎日練習することはできませんでしたが、弾ける日には数時間があたりまえでした。
そしてある時、楽器屋さんから二本の弓を勧められたのです。
スズキメソッドの曲はぜんぶ教室の合奏で経験があって、さらに難しい曲もいくらか弾けるというレベルの人に対して、この弓を弾いてみてはいかがでしょうかと。
性格が真反対の二本の弓でした。一本はふわふわそのもの、もう一本はパリパリ感がはっきりした弓でした。結局パリパリのほう(J.F.ダベールのワンスター国内販売額60万円)を選んだのでしたが、驚きました。
1時間ほど練習して体を慣らしてから演奏しなければ弾けなかった弓運びが、20分か30分の慣らしでスラスラと弾けるではありませんか。実はやられたと感じました。
今までの自分の努力はなんだったのか?費やしてきた慣らしの時間と手間は一体なんだったんだろうか?という感じです。
そうしてそこから堕落が始まりました。弓がよければ練習しなくてもなまじ弾けてしまうからです。しかし天は見逃しません。さぼったぶんだけ罰を与えてくれました。
たしかに弓のグレードを準プロ級にすると飛躍的に演奏技術が上がります。
しかしどこまでいっても弾き込みが前提条件なのです。プロの練習量は、とうていプロだとは思えない、3時間4時間のレベルです。学生もプロもないのです。
たしかに蓄積があるので、一日だけ1時間しか弾かない日があっても技術はそうそう落ちませんが、プロですらその練習量があるのです。
重要なのは3時間も4時間も演奏してもたいして疲れない演奏方法です。よい弓を使うことも重要になります。姿勢が正しいかどうかも重要になります。練習メニューが適切かどうか毎日チェックしなければなりません。
そうして上達していけば、確実な演奏技術を手に入れることができます。
グレードの低い弓で懸命に練習するのは疲労感がすごいです。かなり疲れます。練習用として十分に使えるグレードを予算をケチらずに採用しなければなりません。練習用という表現は幅が広すぎて適切ではないかもしれません。
たとえばベルナール工房製とかアルコス工房の弓など強さと精度がある程度バランスをとって作られた弓を使うといいでしょう。しっかりした材質であれば強さがあり、しっかりした職人さんであればある程度精度があります。
そして最近では安価なコーダ社製のプロディジーという弓もあります。
そういった品質の高い弓で練習時間を割いて数時間の弾き込みをやると嫌がうえにも上手になるでしょう。スズキメソッドならやさしい曲から順番に、普通なら指慣らしや音階教則本から順番にというメニューの組み立ても覚えていくとよいかと思います。
バイオリンは実に難しい楽器だと思います。毎日弾くのが前提ですし、その内容も集中を欠いてはかえって悪化しますからね。集中して繊細に長時間弾けるようになったら上達が早いですね。
どうしてもモチベーションを維持することが難しいので、毎日それほど集中して長時間練習するということは、特にアマチュアでは難しいと思います。そこまで経験してバイオリンは難しいと思います。
もし幼少期からバイオリンをやるんだったらプロになるために最小限度の努力と報酬で頑張った方がいいでしょう。間違っても趣味のバイオリンを目指すなんてあらゆる意味で不経済なことは考えないほうがよいでしょう。また、子供に趣味でやるようにすすめるなんていう残酷な命令はしないようにいたしましょう。
費用だけではないメンテナンスの手間がすごいのがバイオリンです。一日手抜きをしただけで腕が落ちるようなことはありませんが、数日手抜きをすると腕は落ちます。
費用と手間とを考えると、バイオリンは趣味でやるものではありません。不幸にも趣味でやらなければならない方は、ひたすら弾き込んで上手になるように精進するよりほかはないでしょう。まともに弾けるようになってはじめて幸福を感じることができるわけですから、それまでの期間は最短であることがもっとも幸福です。とにかく時間をつくって弾きまくりましょう。メンテ代もいとわずバンバンレッスンに通いましょう。
もちろん無理はいけません。ポイントは集中を持続してどれくらい弾けるかです。集中が途切れたらたとえ1分1秒でも弾かないほうがいいです。下手になるために練習するなんて本当に馬鹿げていますから。クリアに集中できる能力を均一に持続できるようにする訓練が練習の一側面です。
残念ながら子育て繁忙期を終えた専業主婦や閑職や窓際族の公務員みたいな仕事の人しか趣味でバイオリン(弦楽器)はできないでしょう。
しかし物理的時間的にはそういった職業的条件が重要ですが、精神的には若さと情熱をどこまで保てるかということも非常に重要です。私もそうなのですが、先述したモチベーションをどう維持するのか、というところがとてもカギになるかなと思います。