FujiYama’s blog

バイオリン弾きの日常的な生活の風景、感想などのブログです 政経もけっこうあります

クラシックバイオリンの楽譜

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入門用 幼児のお試し用

 バイオリンというものを知らない人がだいたい最初に手にするのがこのスズキの教本で、有名な童謡からヴィヴァルディ、バッハ、モーツアルトの協奏曲に小品を混ぜた全11巻の入門メソッド。数十年前に一大ブームがきて世界的にも認知された幼児用メソッド。今でも大人の趣味の人たちが始めるときにはまだまだ現役で使われている教本です。私も産まれた時にはバイオリンを知らず、3歳ではじめてバイオリン教室に連れていかれたそうなので、それ以来のお付き合いになる教本です。ポジションエチュードや合奏第二バイオリンの本も出ています。昔はレコードがついていたのですが、今のCDにはカラオケがついていて面白いと思います。実際にはカラオケというのはやむを得ない場合に用いるもので、例えば伴奏者が間に合わなかったとか、それほど使う機会はないかと思います。

 さて、このスズキの教本と別の版の楽譜を見ていて実は問題があるなと感じます。それが特に顕著なのはバッハとモーツアルトの協奏曲についてです。これを熱心に練習してみるとわかりますが、まったく指使いも弓づかいも違います。ラフォリアについては音符から違います。スズキは世界に認知されましたけれども、それは主にヴィヴァルディのほうで認知されたほうが強力で、バッハやモーツアルトによってではありませんでした。幼児がヴィヴァルディの協奏曲を演奏する姿は確かにインパクトがあります。そしてその譜面はそれほど奇異なものではありません。優れたメソッドだという印象でした。

 バッハとモーツアルトは練習していてはっきり特異な楽譜です。これだけ原典版と違うともはやバッハやモーツアルトではなくバッハ風スズキ練習曲、モーツアルト風スズキエチュードだと言えるほどです。しかし素人や初心者にはその違いはまったくよくわかりません。ですからラフォリアやバッハやモーツアルトの協奏曲にさしかかったら、6巻から速攻でスズキ教本は捨て去るべきです。平たく言って世界では通用しません。

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皆さん見慣れたベーレンライター

 バッハはまだしもモーツアルトはもともと作曲家でありバイオリン演奏者だというところで、なにはともあれ絶対に、あえて絶対にと申し上げますが、断じてヘンレかべーレンライター版の楽譜でレッスンを受けることをおすすめします。つまりそれができそうにない先生なら先生をかわらなければなりません。

 数十年間スズキの教本で練習してみて、どうしても超えられないものがなんなのか、ようやく私は覚知したところです。所詮入門用ではバイオリンマスターという峰の山頂にはたどり着けません。しかも大半の教師たちはその真実を教えようとはしません。つまりお客さんにご機嫌をとることには長けた営業マンとしての教師の面が断然強いということです。レッスンでは教師たちに教える気がたいしてないというのもまた事実です。

 モーツアルトがどんな風に演奏していたか、という具体的な指示が楽譜です。ですからそれ以外の版は本来ありえないものです。あとからモーツアルトに無許可で書き込みをして勝手に指使いや弓つかいを書き込んだりするなんてことは、人間としてやってはならないことですが、出版業という商売上、版を作れば売り上げや著作権料が入るからというほぼそれだけで悪事は蒔き続けられています。

 クラシックのレッスンはほぼまっさらな楽譜、つまり余計な書き込みがない原典版をまっさらな楽譜としてみて、その楽譜に代々伝わる奏法で教師が書き込みをして伝授していく形です。ですから曲によっては代々伝わる奏法がわからない場合も発生しますし、流派が違えば奏法も違いますから、教師選びが本当に難しいものになります。それが原因で少年が自殺未遂したという話があるくらいです。

 ある程度きちんとした奏法を教えて下さるなという教師に巡り合うことが先決ですが、原典版の楽譜を入手して練習するのが一番で、二番も三番もありません。

 よくこちらの方がよいとかあちらの方が好みだとかいう話がありますが、楽譜に関しては例外だと考えなければなりません。

 問題は少々価格が高い。安価なものの倍から倍以上しますね。コピーに走る人も当然出ますが、教育目的ですからある程度はやむを得ないなと感じます。しかし不思議なことにきちんとした先生と生徒ならきちんとした印刷の楽譜が最優先になります。

 原典版原典版と表記されているものか、主に上述の2出版社のものがよいとされます。他の楽器はよくわかりませんが、おそらく共通した課題に当たるのではないでしょうか?モーツアルトがこう書いて演奏したという楽譜があって、それを辿るというだけでも素晴らしい経験になります。動画やコンサートで世界的な名手の演奏を見聞きしていて、なるほど素晴らしいなあというものは、間違いなく原典版で演奏しています。両手がほぼこう演奏するのだと感じとる喜びは、ちょっと経験者にしかわかりません。特に私は亜流の身勝手なメソッドで長らく練習して演奏してきたので、本物に出会えた感動を噛みしめています。まだ原典版でマスターできていませんが、世界中のバイオリン好きが無駄な努力はいち早くやめて遠回りしないように切に願うものです。

 音楽教師は、自分がプロできちんとした教育を受けてきていることに甘んじないで、どんな素人であれ、初心者であれ、正しいクラシックバイオリンを正しく教授してほしいなあと心底思いました。多くの教師たちとは違って、幼児用は私ならば大人にはすすめません。他にきちんとした教則本がありますから、特にスズキを希望する人にしか用いないと思います。

 スズキメソッドや趣味で耳から入る人は、そのお手本になっている楽譜の版をよく書店で探す必要があります。先生や仲間が教えてくれる場合はよいのですが、版をわかってから入手して練習しなければ、無駄な労力をかけて無駄な時間をかけて暗譜しづらい経験を重ねることになります。しかし基本的には本来どういう形でレッスンを受けるべきなのかという生徒としての姿勢から言えば、先生の指示を仰ぐのがなによりです。この曲が弾きたいという話はできますが、いきなり勝手に楽譜を持ち込んでもあまり機能的なレッスンは期待できません。

 趣味だからという言い訳をする人も当然おられますが、いかに多くの山頂を汗をかきながら快適に登攀するかということを優先すると、音楽の楽しみは広がるのかなと思います。百名山を登ろうみたいな、素晴らしい名曲を100曲演奏できたらいいな、みたいな感じだといいですね。

 途中で間違えても小さなミスはあまり関係なく、道を間違えたり(同じところをグルグル回ったり)山頂に到着しなかったり(盛り上がりや感動に欠けたり)するようなことがないように、先生方のご指導のもと、きちんと日夜努力を重ねてまいりたいと思います。

 音楽学の学士がない私のたどたどしい記事ですが、楽譜はなんでも構わないというようなことだけはないというところはおわかりいただけたでしょうか?クラシックの場合は特に師弟の奏法伝授が第一でそれにまっさらな楽譜を用いるという形ですね。

 明るくひろく視野をもって暗い樹海にさまよう人が一人でも減りますように。

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人の数だけ解釈があるなんて恐ろしいことを言われるバッハ無伴奏