FujiYama’s blog

バイオリン弾きの日常的な生活の風景、感想などのブログです 政経もけっこうあります

天然素材の弓とカーボン弓 工業製品はどこまで天然素材に近づけるか? 2020

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カーボン最高峰

 きちんと練習をする良い子は、弓を変えようなんて不純なことは考えません。でも、もしかすると、損をしていることに気が付かないままの人もいるかも知れません。

 

 100万円程度までのモダン、オールド弓なら間違いなくほどほどのカーボンを検討するべきです。それ以下の木製の弓なら明日にでも楽器店へ行くべきです。100万円程度の新作でもバランスのよい削り出し製法の弓はあまりに稀ですから、新作を使うならやはりカーボンを考えるべきです。つまり最高品質のオールド弓以外は、候補はカーボン一択です。

 

 最初はカーボンなんて機械的で無機質な音色で使い物にならないと考えておりましたが、まず操作性でコーダダイヤモンドNXを使ってみました。これはものの見事に予想通りの硬い音のする使えない弓でした。操作性は素晴らしいのですが、音質がとにかく硬い。木製には到底かないませんので、わずか数か月で売却してほどよいオールド弓を購入するに至るわけです。これ至極当然の成り行きでした。オールド弓の繊細な発音に一発でやられてしまいました。NXランクはカーボンの含有率が低く、確かに硬いように作られています。中級者までに向けて作られた半端者の宿命なのです。SX,GXはと言えば、多少音質が丸くなるように作られています。ではなぜそんな半端者を購入したかと言えば間違いなく操作性です。弓の重量バランスがよくてきびきびと思い描いたように弓を運ぶことができるのです。そして硬い反面しっかりした音を出すことができます。

 NXを購入する際にLUMAとPROGIDYも試奏させてもらいましたが、少し性格の違いがあり、特にLUMAはモデルになっている弓がボアランらしく、感覚的には気に入りましたが操作性が難しいように感じました。PRODIGYは入門者向けなのですが、先日また試奏する機会があり、その完成度の高さとコスパのよさに感慨を持つほどでした。これなら世界のバイオリン好きも報われるに違いないと。日本で5万円、北米で3万円台しかしない弓が実にダイヤモンドシリーズの操作性を持っているなんて信じられないですが、ほんとうに使いやすい弓で初心者と言わずプロでも使える品質だと思いました。音色の好みの問題を多少残していますが、NX、SXと大差ありません。NXでもそうであったように多少音が硬いだけです。

 言い換えれば100万円くらい予算があれば、GXかマーキーズの選択肢から選ぶとよいでしょう。特に100万円の木製の音質と実際に比較してみて、がりがりやってみると好みがわかります。少々がりがりやっても全然平気なカーボン弓は本当に安心して弾けます。電子バイオリンやロックなんかやる人はカーボン弓が必要でしょう。クラシックの演奏に耐えうるカーボンはマーキーズ一択かと言えば、SX,GXも十分な性能、操作性、音色があります。しかしそこは自信作GXをはるかに凌駕するマーキーズにかけてみるという感覚的な違いを感じられるかどうかです。性能差は数値上は10%程度ですが、感覚的には無限大の違いです。耐久性はどちらも一生ものですが、操作性で多少の差がまずわかりやすいでしょう。よほど激しい曲を弾かないとわかりませんが、マーキーズにはしなりの遊びを持たせているそうです。そして最も大きい繊細な音色、音質のまろやかさ。これはオールド楽器であれば絶対マーキーズという選択をしなさいという意味です。私の楽器はまだモダンにも入らない程度ですから、それほど違いが判らないのかと言えば、モダンもどきですらオールド弓の繊細さと緻密な音色にはうなります。つまり結局最高品質には叶いません。ペカットを模して造られた弓たちが、どこまで本物のペカットに近づけるか?もうこれ以上はおそらく難しいのではないかと感じました。なぜならば実際本物のペカットを使ったことのない私が、ペカットというのはこれほど素晴らしいのかという感覚に感動したからです。あまり説得力がないかもしれませんが、たくさんの木製のペカットモデルを試奏していて、こんなに素晴らしいバランスの自在な感覚の弓を弾いたことがないというレベルです。音色も緻密でやわらかく明晰です。現代最高峰とされるギヨームでも何本も試し、その他の職人さんたちのものでもこのバランスのものは一度も弾いた記憶がありません。もう全然別物でした。

 近年躍進してきているブラジルのアルコスという工房の弓を試奏させてもらう機会があり、そこでは素材の違いをメインに観察してみました。シンプルに目が詰まっている硬い木材を使った弓が最高ランクで音に芯があり、しかも凛とした華やかさがあり、レスポンスもよいものでした。もっともペルナンブーコの豊富なアルコスですから、この材質のランクについては文句のつけようがありません。操作性と重量バランスではラミーモデルの(通好みの)ものがよかったのですが、残念ながらそれは材質がセカンドグレードで少し柔らかいものでした。アルコスは共通して華のある音色です。全体的に操作性、重量バランスではもう一歩という印象でした。もし選ぶとしたら音色重視で選ぶことになるでしょう。

 コーダのダイヤモンドシリーズとPRODIGYを推したくなる理由は、最高の材料で作った木製の音色と遜色ない強さと華やかさを感じるからです。強くて華やかな音を操作性よくという求める全てがあるようなカーボン弓です。そこにさらに木製の微妙なしなりと緻密で繊細な音色、発音を求めるのが人の常で、つまりカーボン弓に木材の弓の最高峰を求めるのが自然で、そこに2018年マーキーズ発売となったのでしょう。成り行きが進化です。

 そんなわけで、新作の最高峰を凌ぐ重量バランスと強くて華やかな音色、中途半端なオールド弓を超える操作性と頑丈な素材、中途半端なオールド弓を超える音色となると、最高峰のオールド以外はほぼ勝てないです。

 本物のサルトリーの音色を試してみたのと比較しても、こればっかりは主観ですが、ぜんぜんイケてるのではないかという印象です。(サルトリーは優しいですから比較にはあまり向いていないのですが)ウーシャ、モリゾー、ユーリたちではちょっと叶わないなと一歩譲ります。さすがに名器と組み合わせると、ウーシャたちも挽回するかと思いますが、名器とマーキーズなら圧倒的にマーキーズ優位を感じることができます。もはやそこらへんのオールドフレンチは顔がありません。空恐ろしいことですが、ただノスタルジックな感傷に浸るためのオールドフレンチボウになってしまいますね。

 面白いのはお手本になっているのが人間が削り出したペルナンブーコのペカット弓だということです。現代の名工たちが、このペカットにはどうしても勝てないらしいのです。工業製品のほうが、より精巧にペカットを再現してしまっており、そこにまず並ぶような新作が出ないのです。投機でギヨームなどを購入している人がたくさんいますが、まさか10万円そこいらの工業製品に勝てないなどとは夢にも考えていないでしょう。たとえ工業製品が優れていても天然素材が絶対に優位だと信じて疑っていないのです。

 最初は安価なカーボンを試してみて、なんてきつい音色音質の嫌な感じの弓だという印象でした。これはきちんとした素材の弓を知らない間の印象でした。さらに奏法をきちんと学んでいない間はそういう印象を持つものなのです。

 いわゆるアマチュア好みの弓とは、素材が中途半端で作りが中途半端なものです。それはとてもやさしい立ち上がりの発音になりますし音がやさしいスカスカのものになります。まともに弾くとスカスカでとても使えるものではありません。ちょうど使える使えないが逆になっているのです。

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とてつもない高品質高性能の廉価版 えっ5万円?てそれホント?

 アマチュアの人は迷わずPRODIGYかダイヤモンドシリーズを予算から選んで奏法をきちんと勉強するとよいでしょう。バイオリンというのはこんなものなのかと目が覚めるような違いを覚知してほしいなと思う今日この頃です。

 プロは練習用、バンド、電子バイオリン用にGXかマーキーズを持っておくのが無難でしょう。クラシックでも練習でバンバンオールド弓を使えるかと言えば、とても恐ろしくて弾けません。たまにストレス発散気味に大音量で弾く曲を弾いて、この曲毎日練習しづらいなあと、ホント弓さんごめんなさいね、みたいな感じになります。

 もちろん講師の先生の指示ご教示を毎日思い返しながら基礎練習した上でのオールド弓使用ですが、もうこれ以上ユーリさんに御無理をお願いするのは、誠に申し訳なくて申し訳なくて仕方がなかったので、マーキーズを入手する運びとなりました。

 これからはマーキーズにガツンとかゴンゴンとか言わせて唸らせて、練習用の中途半端なイタリアンオールドのような底なりのする愛器を大活躍させたいなと思います。言い訳になりますが、ダイヤモンドシリーズやマーキーズの重量バランスでボーイング練習すると弓の持ち方もよくなります。ユーリのバランスも素晴らしいのですが、それよりさらに完全なるバランスで練習できれば、どんな人でも上達は間違いないです。バイオリンの腕なんて弓ひとつです。弓がよくなれば誰でも上達します。まっすぐボーイングしなさいなんて指導は馬鹿げています。練習で弓を飛ばしてみようなんてアホらしい。勝手に飛ばしたいところで飛ぶのが正しい弓です。それ以外は間違った弓です。変に練習を頑張るのは間違った根性論そのものです。そんなことを知らない人は多分もういないかな。いや案外アマチュアには多くまだのこっているものです。安い弓か高い弓の違いではなくて、正しい弓と間違った弓という概念をはやく身に着けてほしいです。

 教育機会均等ということが言われて久しいのですが、どうしても高いものが良いと思うだけで、安い製品は全部だめみたいな思い込みは、ただ知らないだけです。

 本体についてプロオケに就職するのに高価な楽器が必須なのは、ある程度はそうですが、数十万円の楽器でも採用されている方がおられるのは有名な話です。むしろ練習内容や公開演奏の機会に恵まれてきたか、師匠に出会えたかどうかのほうが重要なポイントです。

 私はとにかく低予算でバイオリンを弾く必要に迫られてきたおかげで、逆に沢山の楽器、名だたる名器を試してみる機会に恵まれ、値段と楽器の実力が必ずしも一致しないことも知りましたし、ある程度の評価(コンクール)は評価として見てよいことも知りました。

 そういう本体の実力や性格などを見たうえで、弓もそれなりにたくさん見てみて、教育用にはPRODIGYかNXだなとわかりました。ダイヤモンドシリーズ上位機種、マーキーズはプロ向けなので、趣味でも使って構いませんが、ほとんど使いこなせないと思います。趣味でもゆくゆくはペカットを購入するつもりがあるような人なら値打ちがあるでしょう。

 PRODIGYやNXは、同じ品質のものを買おうとすると国内では30万円から80万円は出さないと買えませんから、教育の機会均等という観点からもカーボン弓はすばらしい製品だと思いました。市中のバイオリン好きが数万円の廉価なバイオリンセットを購入したら、まずPRODIGYを購入しなければなりません。

 ある実力ある楽器製作者が中途半端な楽器を駆逐したいと仰っていました。あまり健康とは言えない楽器や鳴りのよくない楽器がたくさんあって、それらだけでこの世が満たされるのは耐えられないという当たり前の感覚です。もし同じように中途半端な弓を駆逐するとしたら、その楽器商は弓のほとんどを処分しなければなりません。

 GX,マーキーズが出てしまったからには、有名どころのオールドボウも新作の有名どころもまったく中途半端なものです。最初にこの記事を書き始めて明確な結論から言いましたが、本当にこの世には最高峰のオールドとカーボンだけで十分です。木の弓だからなんでもいいような錯覚にとらわれて、実は使い物にならないものばかりです。音の良さは最高峰の材質と最高峰の削り手が一致しなければ実現しません。残念ながら現在は新作にそこまで素晴らしいものはありません。古いものでも材質がもうひとつのものが沢山あり、本当に良いものはどんどん疲弊して使えないものになってきています。熱帯雨林ペルナンブーコを植林して、よい材料が豊富になるように皆さんで努力しなければ仕方がありません。現代の弦楽器弓業界は、職人さんを育成するために新作の弓を販売・購入するしかない育成の時期です。またペカットのような素晴らしい職人さんが出たら、それこそミルクール黄金期に並ぶような奇跡として世界が賞賛するでしょう。

 カーボン素材の研究がすすんで満を持してマーキーズが出たので、これから先はもう進化する余地はほぼゼロです。カーボンの配合比率だけでない、カーボン素材そのものの違いと音色やレスポンスの違いがわかってきて、これはほぼ最高峰と言ってよいのではないでしょうか。(PRODIGY,NX,SX,GXも重量バランスにはまったく文句がありません)ちなみにマーキーズは製品一生涯保証付きです。実物の状態のよいペカットを弾いてみる機会があれば、そのものと比較したいですが、今回のお題は間違いでした。表題は、2018工業製品は天然素材を超えた!!!でした。

 数十年前に科学者スタン・プロセン氏がカーボン素材の開発の主眼をなによりも弓の素材に置いていたことが印象的です。どんな特許や科学的評価、名声より、弦楽器文化に貢献することが人類への貢献であるという確信のある方だったのですね。彼炭素繊維の弓素材への開拓が人類への最大の専門的貢献であると考えていました。

 アジアや日本なら軍事技術や医療技術や工業製品のコストカットなどへの貢献に目を向けられやすいところですが、新興国でありながらアメリカの科学者には学ぶべきことがあるなと感心しました。弦楽器愛好家として微力ながら西洋音楽に結実した弦楽器文化に貢献したいものだと思いました。延命や経済も大切ですがそれは動物なら同じことで、人類の本当の幸せはよい音楽の共有こそなのだと改めて再認識いたしました。まともな弓が廉価に量産できる科学技術は、ほんとうに人類の多くを幸福にしてくれるものとして感謝されるべきだと思います。